タイトルマッチ(大学入試)の過去問研究を行なう新シリーズ「数理哲人考究録」が,リリースされる。
闘う京大数学2005-2009 理系&文系 全80問の研究
A5版,250ページ,定価3,200円(税込3,360円)
▼「はじめに」より
私が教室で常々述べている「闘う数学」というコンセプトがある.これは「目標達成のためには,自分の現状に甘んじた問題を解くだけでは足りない.常に半歩・一歩上の問題と闘え!」というものだ.このような闘いのリングを与えるためのシリーズとして,プリパス知恵の館文庫から,「数学格闘技」シリーズ,「数理哲人講義録」シリーズを上程している.そして,タイトルマッチ(大学入試)の過去問研究を行う新シリーズ「数理哲人考究録」がここに加わることになった.
タイトルマッチに挑むには,予選を勝ち上がらなければならない.通常は,まず予選,次に決勝という順序だが,予選に臨む時点で決勝の闘い方にまで思いを馳せ,準備をすすめておくことが必要だ.キミたちのタイトルマッチ(大学入試)も同じで,予選(大学入試センター)から決戦(大学別の2次試験)までの期間が1か月あまりしかないのだから,予選から決勝までの闘いの全体像を見きわめたうえで,試合の闘い方(対策)を練っておくことだ.
本シリーズ「数理哲人考究録」で採り上げる京都大学の過去問は,多くは短い問題文だが,それゆえに切れ味のよいロジックを要求している.京大の数学が,華麗な空中殺法を駆使するルチャ・リブレ(メキシコのプロレス)に喩えられる所以だ.
以下に,京都大学の数学の特徴を3点あげておこう.
まず,京都大学は論証を重視する.とりわけ,整数問題や初等幾何の分野に,出題の特徴がみられる.すなわち,数行で終わる鮮やかな答案を書くことだけが,京都大学の数学ではない.問題によっては,ストロング・スタイルの闘い方も必要だ.堅牢なロジックで,ことばによる答案を織り上げるのである.
また,京都大学は小問に分割しない.よく東京大学の数学と比較されるが,ここは大きな違いだ.問題文はシンプルに「を求めよ」「を示せ」と,ズバッと訊いてくる.題意に澱みはない.シンプルな美しさを徹底しているのだ.そこには教育上の意図もある.そもそも,小問に分割して,どこまで出来た(到達した)かをみるのは,試験を実施する側の「受験生の間での分布をつくる」という都合によるものだ.試験の識別力を上げるための措置ではあるが,本来の数学の問題には小問(ヒント)などない.小問に分割しないでズバッと訊いてくるのは,「独り立ちして考えられるようになれ」というメッセージなのだ.
さらに,京都大学は文系数学の枠に閉じこもることを許さない.年度によって異なるが,文系数学に行列や体積を出題する.しかしこれらは,1996年までの大学入試では,文系数学でも出題範囲となっていたのだ.ゆとり教育・学力低下は許さん,ということだ.「知の殿堂に足を踏み入れたければ,文系であっても,しっかりした数学を学んでこい」というメッセージなのだ.
本書は,京都大学の過去問と闘ってもらうための問題集だが,闘い方は受験生それぞれだろう.そこで本書は,「分野別の闘い方を身につけたい」「年度別のセットでの闘い方を身につけたい」という2つのニーズに応えるべく,「分野別問題一覧」を設置したうえで,年度・文理系別の解説を置き,これらをリンクさせることとした.
本書が,後に続く大学受験生諸君の学習に役立つのであれば,この上ない喜びである.数理哲人は,目標を抱く君たちの,熱い闘いを応援する.
平成22年5月
覆面の貴講師
数理哲人